アクセシビリティ対応が必要だと言われた段階では、何をどこまでやればいいのかが決まりません。規格の名前が複数出てきて、そこに法律の話が重なる。調べると「2024年4月から義務になった」という説明が並び、では自社のサイトで何を直せば要件を満たすのかは書かれていない。
つまずくのは、言葉の定義と、適合レベルの選び方と、着手の順番です。法制度については、義務になったものと努力義務のままのものを条文の単位で分けます。以下は2026年8月時点の情報です。
Webアクセシビリティは何を指す言葉か
デジタル庁のガイドブックは、利用者の障害の有無やその程度、年齢や利用環境にかかわらず、ウェブで提供されている情報やサービスを利用できること、またはその到達度、と定義しています。解説記事の定義もここではほぼ揃っていて、説明が割れるのは後述する法制度の側です。
実装に落とすと、見る先は個別の項目になります。文字と背景のコントラストは足りているか。キーボードだけで操作を完了できるか。いまどこにフォーカスが当たっているかが見えるか。画像に代替テキストがあるか。音声が自動再生されないこと、自動で切り替わるコンテンツを止められること。
WCAG と JIS X 8341-3 はどうつながっているか
WCAG は W3C が策定するウェブコンテンツのアクセシビリティに関する国際標準で、JIS X 8341-3 はその内容を国内規格として取り込んだものです。
WCAG は1999年の1.0から始まり、技術非依存の構成に刷新した2.0が2008年、2.1が2018年に17の達成基準を追加、2.2が2023年10月に9つの達成基準を追加して勧告されました。2.0・2.1・2.2 には後方互換性があり、まとめて WCAG2 と呼ばれます。
JIS X 8341-3:2016 は、WCAG2.0 および ISO/IEC 40500:2012 と技術的に完全に同一内容の一致規格です。名前が3つ出てきても、見ている中身は同じものです。
規格票を取り寄せても、判定はできない
JIS の規格票には本文しか含まれていません。WCAG2 側にある解説書やテクニック集に相当する詳細が入っていないため、規格票だけで自社サイトをチェックすると不完全になります。手元で開くことになるのは、規格票ではなくそちらの方です。
2026年8月時点の規格の状況
WCAG2.2 は2025年10月21日に ISO/IEC 40500:2025 として国際規格化されました。JIS X 8341-3 もこれに合わせた改正作業に入っています。2025年10月に改正原案作成委員会が発足し、2026年5月頃の原案完成を目標に作業中で、原則として ISO/IEC 40500 との一致規格になる見込み、というところまでが公表されています。発行時期には触れられていません。
ただし、2026年8月時点で確認できる発行版は2016年版のままで、改正版がすでに発行されているかどうかは確認が取れていません。「JIS 準拠」と書かれた要件定義書を受け取ったら、どの版を指しているかを先に確かめた方がよい時期です。
適合レベル A / AA / AAA のどれを目標にするか
目標に置くのはレベル AA です。AAA をサイト全体の方針にすることは、規格を作っている側が推奨していません。
適合レベルは A・AA・AAA の3段階です。レベル AA を満たすにはレベル A と AA の達成基準すべてを満たす必要があり、AAA は全レベルの基準を満たす必要があります。コンテンツによっては AAA の基準を満たせないものがあるため、サイト全体の方針として AAA を要件にすることは推奨されない、と W3C の文書に書かれています。
公的機関向けには、総務省「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2024年版)」がレベル AA への準拠を推奨しています。ただしこのガイドラインが対象にしているのは国・地方公共団体等で、民間事業者は含まれません。民間で AA を目標に置く根拠として引くなら、他国の法律やポリシーでも AA を推奨する例が多いことを踏まえて「原則 AA に適合させることを目標とする」としているデジタル庁のガイドブックの方が近くなります。
AA の確認は、基準を1つずつ当たる作業になる
JIS X 8341-3:2016 の適合レベル AA に準拠していることを試験で確認する場合、レベル A の達成基準25個とレベル AA の達成基準13個の中から該当する基準を選び、ひとつずつ確認していきます。
この数を全画面に一度に当てる計画は、初回では組みにくい。どこかを絞ってから入ることになります。
「2024年4月に義務化された」のは、何が義務になったのか
義務になったのは事業者による合理的配慮の提供です。ウェブサイトをアクセシブルにする取り組みそのもの、法律の言葉でいう環境の整備は、2026年8月時点でも努力義務のままです。
条文の作りが違う
障害者差別解消法の現行条文は、第5条で行政機関等と事業者の双方に対し、環境の整備に努めなければならないと定めています。努力義務の書き方です。一方、第8条2項は事業者に対して、社会的障壁の除去について合理的配慮をしなければならないと定めていて、こちらには努力義務の文言がありません。
2024年4月1日に施行されたのは、令和3年の改正で事業者による合理的配慮の提供が努力義務から義務に変わった部分です。不当な差別的取扱いの禁止は、改正前から行政機関等・事業者ともに義務でした。
ウェブサイトはどちらに入るのか
政府広報オンラインは、合理的配慮の提供が民間事業者にも義務化されたと述べたうえで、その合理的配慮を的確に行うために環境の整備が努力義務となっており、ウェブサイトの場合は JIS X 8341-3:2016 に準拠したサイトを作ってウェブアクセシビリティを確保することがこれに当たる、と書いています。デジタル庁の導入ガイドブックも同じ整理で、対象読者にウェブアクセシビリティへ取り組みたい民間事業者を含めています。
サイトの作り込みは環境の整備、つまり努力義務の側。個別の申し出に応じる対応が合理的配慮、つまり義務の側です。この2つを混ぜると、判断が両側に振れます。「義務化された」とだけ読めば全面改修の見積もりから入ることになり、「努力義務だから後回し」と読めば、申し出が来たときの個別対応が現場に丸ごと乗ります。
個別のサイトが法的にどう評価されるかは、ここでは判断しません。書けるのは、条文が何をどう定めているかまでです。罰則に言及している解説記事もありますが、適用条件を法令まで遡って確認できていないため、この記事では扱いません。
何から手をつけるか
デジタル庁の導入ガイドブックは、達成すべき項目に優先度をつけて4段階で解説しています。
- 達成しないと利用者に重大な悪影響を及ぼすもの(非干渉)音声の自動再生を制御すること、キーボードトラップがないこと、光の点滅を制限すること、自動で切り替わるコンテンツに一時停止の機能を持たせること。この4つに限られているので、着手の単位としても扱いやすくなります。
- 達成しなければならないもの
- 状況に応じて確認すべきもの
- 導入に慎重な検討が必要なもの
そのうえで対象ページを決めます。適合の確認は基準ごとに該当を選んで1つずつ見ていく作業なので、範囲を決めずに始めると、どこまで進んだかが分からないまま止まります。ページを絞って全基準を通すのか、基準を絞って全ページに当てるのか。この選択を先にしておくと、進捗を数えられるようになります。
一度直しても、運用で戻る
アクセシビリティは、改修して合格した時点で終わる作業になりません。リリースを重ねるうちに、新しく足したボタンでコントラストが落ちる、追加した画像に代替テキストが入っていない、という形で少しずつ外れていきます。個々の変更は小さいので、レビューで止まりにくい。
Nue は毎週プロダクトをクロールして6つの観点でレビューします。UX、UI品質、デザインシステムからの逸脱、アクセシビリティ、コピー、コンバージョンの阻害要因。アクセシビリティの枠で見ているのは、コントラスト、フォーカス、キーボード操作、代替テキストです。コントラスト比のように機械的に判定できる項目は自動化して、UX の判断は人が見ています。観点の詳細は プロダクト開発支援 のページに書いています。
崩れを検知する仕組みがないと、直した状態が保たれているかどうかは誰にも分かりません。同じ構造の失敗は canonical の食い違いでインデックスが止まった話 にも書きました。一度直したものが戻っていないかを、人の記憶ではなく定期的な確認で見張るという点で、扱いは変わりません。
うまくいかない進め方
- 規格票を取り寄せて読み合わせから始める。本文しか含まれていないので、判定に必要な解説がそこにありません
- AAA を社内方針に掲げる。コンテンツによっては満たせない基準があり、サイト全体の要件にすることは推奨されていません
- 総務省のガイドラインを民間サイトの根拠として引く。AA を推奨するという結論は同じでも、対象は国・地方公共団体等です
- 法改正のニュースだけで全面改修を決める。義務になったのは合理的配慮の提供で、サイトの作り込みは環境の整備の側にあります
先に決めるのは3つです。目標を AA に置くか、対象をどこまでにするか、崩れをどう見張るか。規格の逐条解説は公的機関の文書が厚いので、ここを決めてから読み始めると、読む範囲が絞れます。